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最高裁判所大法廷 昭和28年(あ)371号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人松永勝次弁護人山本新の上告趣意第一点及び第二点の一、被告人福地実弁護人今泉三郎の上告趣意第一点、被告人古賀善保、同古賀賢次弁護人長崎祐三の上告趣意について。

口の島を含む北緯三〇度以南、北緯二九度以北の南西諸島は、本件犯行の当時においては、昭和二四年五月一四日法律第六五号、関税法の一部を改正する等の法律により改正された関税法一〇四条に基く昭和二四年五月二六日大蔵省令三六号により関税法の適用については外国とみなされていたのであるが、右大蔵省令を改正した昭和二七年二月六日大蔵省令五号により、昭和二七年二月一一日以降は右の地域は、外国とみなされなくなり本邦の地域となったことは前記法令自体で明である。所論は右法令の経過に徴すれば本件所為については原判決言渡(昭和二七年一二月四日)当時において犯罪後の法令により刑の廃止があった場合にあたるにもかかわらず原判決は免訴の言渡をしなかった違法があると主張し、又は更に右の前提に立って憲法違反を主張するのである。しかしながら右大蔵省令五号によって外国とみなされる地域に変更があっても、外国又は外国とみなされる地域と本邦との間において、免許を受けないで貨物を輸出又は輸入することが禁ぜられているという関税法上の規範は、昭和二七年二月一一日の前後を通じて依然として存続され、従って無免許輸出又は輸入という所為の可罰性に関する法的価値もまた終始かわるところがないと解すべきであるから、右地域の変更は昭和二七年二月一一日以前に成立した関税法七六条違反の罪の処罰に何ら効果を及ぼすものでないと解するのが相当である。されば右大蔵省令五号の施行によって本件所為について刑の廃止があったとする所論はいずれも理由がない。次に犯罪後の法令により刑の廃止があったことを前提として、弁護人山本新は原判決を以て憲法三一条又は憲法一八条に違反すると主張し、弁護人長崎祐三は原判決は憲法三九条を無視した違法があると主張するのであるが、本件においては犯罪後の法令により刑の廃止があった場合に当らないこと右に説明した通りであるから所論違憲の主張はいずれもその前提を欠き採用することができない。

弁護人山本新の上告趣意第二点の二は量刑不当の主張に帰し、弁護人今泉三郎の上告趣意第二点は事実誤認、同第三点は量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四〇八条により、後記裁判官の少数意見を除くその余の裁判官一致の意見で主文の通り判決する。

裁判官真野毅、同小谷勝重、同藤田八郎、同河村又介、同谷村唯一郎、同小林俊三の少数意見は、本件において被告人らが物資を密輸出又は密輸入したとされている口の島を含む北緯三〇度以南、北緯二九度以北の南西諸島は、本件犯行当時においては、関税法の適用については外国とみなされていたのであるが、昭和二七年二月一一日以降は、外国とみなされなくなり本邦の地域となったことは多数説の判示するとおりである。かかる場合においては、右地域が外国とみなされていた間に、右地域に向け密輸出なし、又は右地域より密輸入した罪については、犯罪後の法令により刑の廃止があったものと解し、被告人らに対しては刑訴四一一条五号により原判決を破棄し同法三三七条二号を適用して、被告人らを免訴すべきものであること昭和二七年(あ)第四三四号同三〇年二月二三日言渡大法廷判決記載の真野、小谷、藤田、河村、谷村、小林六裁判官の少数意見のとおりである。

裁判官小林俊三は、この点に関し、前記大法廷判決記載の同裁判官の意見と同一の意見を附加する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田 克)

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